夜のしじまに溶け入る管弦~管弦祭 at 乃木神社

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 乃木神社は、六本木と青山のちょうど中間、高層ビルやにぎやかな通りの間に埋もれるようにひっそりと佇む神社。

 乃木邸のあった(現在も保存されている)高低差の大きな崖一体が境内になっていて、それほど広くはないが、景観は変化に富み、緑も多い。



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 この管弦祭は、毎年行われていて、今年で35回を数える。
 雅楽奉納は、この神社の乃木雅楽会、演奏協力は雅楽道友会。
 この雅楽道友会というのは、品川区で稽古を行っている民間の団体で、区立中学で雅楽の指導も行っているらしい。
 自分が知らなかっただけで、意外と、全国的に、雅楽・舞楽の団体はたくさんあるようだ。


 管弦祭なので、正式な神事として雅楽が奉納されるため、演奏中の写真撮影はNG。
 わたしたちは、拝殿の内部に入って用意された席に座り、演奏や舞は、通常宮司が神事を執り行う幣殿で行われる。

 乃木神社の本殿は小ぶりのお社で、それに比べると、そのすぐ前にある幣殿や拝殿は割と大きめの建物だが、どちらもまったく壁が無い、スケルトンの造りになっている。
 従って、拝殿に座っていると、周囲を取り囲む鬱蒼とした木々が月明かりに浮かぶのが見え、風が吹きぬけ、虫の音が聞こえる。
 大都会の真ん中とはとても思えない。



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 夜6時開始。

 お祓いや祝詞奏上、玉串拝礼などの神事が行われた後、いよいよ演奏が始まる。

 幣殿中央の舞台に運び込まれた楽器は、
 鞨鼓(かっこ)、楽太鼓(がくだいこ)、鉦鼓(しょうこ)、琵琶、筝、笙、篳篥、笛。
 黒い烏帽子をかぶった楽人たちがずらりと並び、なんとも雅びな雰囲気をかもしだしている。 
 一気に平安時代あたりにさかのぼった気分になる。



 以下、この日の演目についての覚書。


 * 前述のように、写真撮影はNGなので、
   これまでに見た雅楽の写真のうち、関連するものを参考にのせました。


 第一部は管弦・朗詠。「管弦」とは舞のつかない楽器のみの合奏。


1、盤渉調音取(ばんしきちょうのねとり)

  「盤渉調」は雅楽の曲の調子のひとつ。
  「音取」はチューニングを兼ねて演奏会のオープニングに奏する短い曲。


2、青海波(せいがいは)

  源氏物語「紅葉賀巻(もみじのがのまき)」で、光源氏と頭中将が舞った曲として有名。
  東京は紅葉はまだだが、気候はすっかり秋。
  季節にあわせた選曲か。


▽ 伝土佐光則 屏風貼付源氏物語図色紙 紅葉賀

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  今は舞が上演される機会はあまりないそうだが、寄せては返す波のような袖の動きがとても美しいらしい。


3、朗詠・紅葉(こうよう)

  「朗詠」は漢詩に曲をつけて管楽器を伴奏に歌うもの。
  青海波とあわせて、もみじ尽くしといったところだろうか。
  
  紅葉また紅葉・・・

  といった歌詞のようだが、慣れないわたしは残念ながら聴き取れず。


4、蘇莫者破(そまくしゃのは)

  雅楽の曲は序(じょ)・破(は)・急(きゅう)で構成され、「破」はいわば第二楽章ということらしい。
  「蘇莫者」は舞楽に用いられる曲で、山の神もしくは猿に姿をかえた山の神が舞を舞う様子を描いた演目で、装束もお面もとても個性的で面白いようだ。
  (まだ見たことがない。そのうち見たい。)


 以上、
 管弦は、どれもゆっくりとした演奏で、
 さらさら流れる川のような管楽器群、ざわめく鳥の声や雨風の自然の音を思わせる打楽器、ポロロンとこぼれる真珠の雫のごとき弦楽器、といった趣きの美しさだが、ちょっと催眠作用もあるのだった。
 ぽわんとした気分になったところで、第一部終了。


 今回は、筝や琵琶など、弦楽器のの音も、まぢかではっきりと聴くことができて、ラッキーだった。
 壮麗な管楽器群の響きの中で、打楽器とともに、合いの手のように加えられる、ポロロンという響き。

 筝の音色など、現代の華やかで機能的なものでなく、とても素朴。
 邦楽の世界でも、モダンとピリオドがあるのだ。
 クラシックの古楽の世界と同じ。最もこちらは、「超」古楽だが。
 ちなみに、筝や琵琶も、雅楽では、太鼓とともに、通奏低音的な役割を担っている。
 

 第二部は舞楽


1、北庭楽(ほくていらく)

  左方・四人舞。
  襲装束(かさねしょうぞく)という装束が用いられることが多いようだが、今回は蛮絵装束(ばんえしょうぞく)が使われた。(もう一つの演目とのバランスかな?)
  男性二人、女性二人で舞っていたが、わたしの席からよく見えた、背筋のピンと伸びたスラリとした若い女性の動作がキリリとりりしく決まっていて、かっこよかった。  


▽ 参考~四天王寺聖霊会(2009.4) 「春庭花」。これと同じ装束。

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 音楽的には、舞人が入場する時に奏された、すべての楽器がちょっとずつずれながら短い同じフレーズをくりかえす、速いテンポの超ストレッタ(密接)カノンみたいなところが、おもしろかった。
(正に光の波みたいだった)


2、延喜楽(えんぎらく)

  右方・四人舞。
  平安時代初期の延喜年間に作られたのが名の由来らしい。
  こちらは襲装束。
  慶事に左方舞・萬歳楽の番舞(つがいまい)として舞われる事が多いとか。
  舞人は四人とも女性だった。
  四天王寺や明治神宮では男性の舞人しかいなかったと思うので、ちょっと新鮮。


▽ 参考~明治神宮春の大祭( 2000.4) 「萬歳楽」、これを緑色にした装束。
  
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 音楽は、こちらの方はとても覚えやすいメロディーで、印象的だった。 


 舞楽の演奏は、管弦の時より、全体的にも少しテンポが速く、メリハリがあるような気がした。
 また、同じ舞楽でも、左方の北庭楽の方が演奏が華やかで、右方の延喜楽の方がシンプルに感じたが、どうやら右方の高麗楽では演奏に笙を使わないらしい。

 舞も楽しく、今度は睡魔に襲われることはなかった。
 ただ、舞楽の演目は二つともシンプルな平舞(ひらまい)だったので、次こそは、もっとヘンテコな衣装や面や動きの舞楽も見てみたい。



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 さて、当日の演目について、簡単に書いてきましたが、
 夜の野外(に近いところ)で、雅楽を聴いたのは初めて。
 総じて雰囲気満点で、なかなかよかった。

 笙がパイプオルガンのように和音を重ねて行き、その上で笛が(超音波寸前くらいの?)最高音を合奏し、それがユラユラと光の波動のようにゆらめく。
 わたしはその揺らぎが大好きなのだが、今回はそれが、やはり高音の虫の音と溶け合って、夜のしじまに静かに流れてゆくのが、何とも言えず幻想的だった。

 夜の演奏ならではの効果。


 それと、これまで見た四天王寺や明治神宮のに比べると、楽人の人数も少なく、打ちものの太鼓も大太鼓(だだいこ)ではなくて、かなり小さめな楽太鼓だったが、その分各々の楽器の音が明確に聴き取れ、音楽的なかけ合いや重なりなどをはっきりとつかむことができて、演奏も見事であることがよくわかった。


 ついこの前の日に、英一蝶展で見たばかりの、阿弥陀来迎図の「天の大オーケストラ」が持っていた楽器が、実際に目の前に並んでいて、(楽太鼓もだいたい同じ大きさ)それらが奏でる音楽を実際に聴くことができておもしろかった。



 それにしても、西洋クラシック音楽の場合、ある程度正確な復原が可能なのは、せいぜい6、700年前くらいまで。
 それ以前は、楽譜(らしいもの)が残っていても、どんな楽器でどのように演奏したかは、推測するしかない。

 それに対して、雅楽の場合、1000年以上もさかのぼって、復原することができる。
(もっとも、もちろん100%忠実な再現ではないけれど)
 古い楽器そのものや楽譜、演奏している場面を描いた精密な絵などがたくさん残っているし、
 何よりも、皇室や寺社仏閣を中心にしたいくつかの団体によって、演奏の奥義などが、ほとんど途絶えることなく現代まで伝えられてきたことが大きい。

 これは、世界でも稀に見る、奇跡的なことなのではないか、と思う。



▽ 終了後、お客が退場する時も、管弦の演奏で送ってくれた。
  退場しつつ、みなさん写真を撮ってらしたので、わたしも撮ってしまったが、拝殿内なのでよかったかどうか。
  楽太鼓と鉦鼓がはっきりと写っているので、参考のためのせますが、問題があったら、すぐに削除します。

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この記事へのコメント

2009年10月21日 09:08
Noraさんは、着々と雅楽の鑑賞と勉強をされていらっしゃいますね。
来月乃木神社にまた、散歩に行きますので、この夜の雰囲気を想像してみたいと思います。
お書きになっておられるように、1000年前の雅の世界がずっと絶えることなく続けてこられたこと、それを観られることを感謝したい気持ちになります。
2009年10月23日 01:46
 tonaさん、こんばんは。
 雅楽にはすっかりはまってしまいました。tonaさんのブログの記事を読み、実際に興味を持っていろいろと聴くようになったので、心から感謝しております。
 雅楽といったら、みんな同じようなものだとばかり思っていたのですが、じっくりと聴いてみると、どれも個性的なので、驚いています。
 今回は、夜の神社での管弦祭でしたが、雅楽の場合、野外で演奏されることが多いみたいなので、演奏される場所の雰囲気も、とても重要な要素になるみたいです。
 夜だったので、乃木邸などは見ることができませんでした。
 HPなどを見ると、質素で素朴ながら、美しい建物のようなので、ご覧になれると、いいですね。

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