伎楽の遠い親戚?チベット仏教のチャム。ブータンとモンゴルの実演比較を見る。at 立教大学

 国際シンポジウム

 日本伎楽とチベット仏教チャムの比較研究 -仮頭に注目して- 立教大学アジア地域研究所主催 

        at 立教大学太刀川記念館



昨年末にこんなチラシをもらった。
(クリックすると、裏面のプログラムを見ることができます)

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一般人も予約不要で入場自由、なにやら伝統舞踊の実演もあるらしい。
でも、チャムって何?・・・と思っていたところ、お正月に行ったチベット仏教美術展(聖地チベット-ポタラ宮と天空の至宝)で、チャムの仮面、衣装、楽器の展示があり、俄然興味がわいてきた。

また、タイトルに「日本の伎楽」とあるのも気になった。
去年から、日本の舞楽にはまっているので、そのルーツといわれる「伎楽」との関連性が少しでもわかれば、という思いもあった。


2日間の日程の中のほんの一部ですが、

ブータンとモンゴルのチャムの実演比較(レクチャー&デモンストレーション)

に行ってきました。



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このシンポジウムのテーマは「仮頭」(かとう)。
頭からすっっぽりかぶるタイプの仮面をこう名付け、アジア地域の仮頭を用いた芸能に注目し、研究成果を公開していくもの。

「チャム」とは、チベット仏教の祭祀の時に演じられる、仮頭を用いた伝統的・宗教的な舞踏で、原則的には僧侶が踊り手となる。
(先日のチベット展の図録によれば、「チャム」はチベット語で「跳」または「舞」の意)


実際にブータンとモンゴルのチベット仏教寺院から僧侶の方々が来日し、デモンストレーションを行ってくれるのだ。

ブータンからは国営寺院であるトンサ・ゾンの方々が来てくださった。
国営寺院におけるチャムは非常に重要な宗教儀式の中の一部分であり、儀式に使用される物の一部のみを国外に持ち出すことはできない、とのことで、寺院の仮頭・衣装・楽器などはなし。
民間人が演じる「ベチャム」で使用される仮面をいくつか持ってきてくれた。
楽器はモンゴルの方からシンバル(正式名称は?)を借りることとなった。

モンゴルからはダシチョイリン寺の方々。
こちらはシンバルと小さな太鼓(?)、衣装と仮頭を何種類か持って来てくれていた。
あとで知ったのだが、モンゴルの寺院は社会主義時代に徹底的に破壊され、宗教儀礼も長らく途絶えていたそうだ。民主化以降、ここ20年の間に寺を再興し、僧侶を育て、宗教儀礼を復元した。
チャムの復元も、関係者の努力のたまものなのだろう。
現在は、宗教儀礼としてのみではなく、海外にも誇れる伝統民俗芸能として内外にアピールしている一面もあるようだ。


両国の踊り手ひとりずつによる短い実演、それを比較する簡単なレクチャー、というかたちで進行。
モンゴルはフレーツァムという宗教儀礼の演目を、僧侶が演じる。
ブータンはトンサ・ゾンで行われるツェツュという宗教儀礼の演目を、僧侶と、寺院で修行した経験を持つ民間人が演じる。
フレーツァムやツェツュに関するあまり詳しい説明はなく、このレクチャーは、モンゴルとブータンのチャムの「動きの違いを見る」ということに主眼を置いたもののようだった。



せっかく行ったので、忘れないように細かく記録しておきます。



宗教儀式につき、写真はNG。
イラストを描きました。


▽ モンゴル僧侶によるダムディンチョイジル

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1、雄牛の仮頭を用いる演目


<ブータン僧侶によるシンジェー(=ヤマ、水牛面)の踊り>

 仮頭はつけていないが、服装はカラフルで華やかなデザインのもので、舞踏用の衣装のようだ。
 はじめて見るチャムの動き。
 シンバルのリズムにのせて、上体をそらしながらの回転と、軽やかで躍動感ある跳躍。
 優美で力強いダンス。


<モンゴル僧侶によるマヒ(=ヤマ、牛面)の踊り>

 こちらは度肝を抜かれるような仮頭と衣装で登場。
 日本の獅子舞と鬼の面をあわせてさらに迫力を出したような牛面の仮頭の上にはドクロがひとつ載っている。
 衣装の一部であるレースのような部分のモチーフもドクロ型。
 動きはブータンのものとははっきりと異なっていた。
 のしのしと大地を踏みしめ歩き回るようなステップと、天につきあげるような腕の動き、力強さを強調するかの
 ような跳躍。
 本来はシワ(鹿)と対で踊るらしい。


<ブータン村人によるケ・チャム(動物神)の踊り>

 トンサ・ゾンで行われるチャムの演目は僧侶が演じるものと、一般人が演じるものに分けられるらしい。
 民間人が演じるものをベチャムと呼ぶ。
 元修行僧である民間の踊り手の方が白獅子の仮頭をかぶって登場。
 獅子といっても、ちょっとかわいい犬のような素朴な感じのかぶりものだった。
 本来は神の化身である12の動物神が輪になって踊るものらしい。
 基本的には先ほどのブータンの僧侶の動きに似ているが、それほど研ぎ澄まされた雰囲気ではなく、どこか
 親しみやすい感じではあった。


 シンジェーやマヒはどうやらチベット仏教でいう「ヤマ」、日本でいう「閻魔様」と同じ神のようだ。



2、同じ神を表現する踊り


<ブータン僧侶によるトゥンガムの踊り>

 本来は12の眷属の輪の中で踊る演目。
 基本的な動きはシンジェーの踊りと同じようだった。
 くるくると旋回する動きが本当に美しい。


<モンゴル僧侶によるダムディンチョイジルの踊り>    * 上のイラスト参照

 先ほどのマヒの面をはるかに凌駕する迫力の仮頭。
 角のはえた青い牛面で、左右&額の三つの眼をカァ~ッと見開き、クワッと開いた口からは鋭い牙がのぞく。
 頭部に5つもドクロが載っているうえに、右手にガイコツ人形みたいなものを握り締め、耳やら角やらに
 装飾品がジャラジャラとつけられ、圧倒される。
 こちらも基本的な動きは1と同じようだった。力強い踊り。


 この2神、まったく同一の神なのかはわからないが、どちらも忿怒尊(ふんぬそん)、日本でいう明王。
 ブータンは仮頭なしでの実演だったが、「トゥンガム」を画像検索したところ、モンゴルのダムディンチョイジルと
 同じ相貌の面だった。
 先日の展覧会でも顕著だったが、チベット仏教にまつわるものには、ドクロのモチーフがやたら多い。



3、衣装なしで1と2の動き


 それぞれの踊り手が、体の動きがよくわかるように、シンプルな服装で踊る。

 ブータンとモンゴルは基本動作から振り付けから、まったく違うもののように見える。
 どちらの国にも、チベットから直接、仏教と一緒にチャムが入ってきたらしいが、広まっていく過程で、変化が
 あったのだろうか。(モンゴルの場合は「復元」なので、もとの形と完全に同じであるか、はっきりしないが)
 チベットやインドのチャムはどちらに近いのだろう。



4、人と神の接点的存在


<ブータン村人によるアツァラの演技>

 1でケ・チャムの獅子を踊った民間人の方が、大きな鼻が目立つ濃い顔立ちの茶色の面をかぶり登場。
 おどけた動作をしながら、客席に乱入し、盛り上げる。
 アツァラとは、祭りの進行役であり、道化役。
 ツェツュの最中、常に周囲に10人程のアツァラが居り、演目のつなぎの間に次に始まる踊りのまねをしたり、
 客や踊り手をからかったりして楽しい雰囲気をつくり、祭りを盛り立てていく。

 舞踏芸能の中の道化役、ということで、沖縄エイサーの盛り上げ役、チョンダラーを連想したが、
 トンサ・ゾンの僧侶の方の説明によれば、アツァラは単純な道化役ではないらしい。
 狂人のようにふるまいつつも、実は豊かな知識と霊的な力を持ち、
 人々に長寿や魂の救済といった恩恵をもたらす者、といった意味合いをもつ存在なのだそう。


 この他に、ブータン僧侶による8つの基本動作(回転や足の動きなど)の実演があった。
 ブータンの寺院に入った修行僧は全員が、チャムの踊りを学ぶ。その第一歩がこの基本動作。
 モンゴル側は基本動作の説明などはなかったが、僧侶の方の話からは、それぞれの演目の中で顕現する
 「神」によって動きの違いがあるようなニュアンスが感じられた。



この後の質問タイムはご遠慮して退席した。
とても面白かったが、やはりレクチャーだけでは物足りなく、機会があったらデモンストレーションではないチャムを見てみたいと思った。
本来は牛の鳴き声みたいな音色のラッパ(ドゥンチェン)の伴奏がつくようで、これも生で聴いてみたい。



かんじんの、タイトルにもあった、「日本の伎楽」との関連に関しては、
この日わたしが聞いたレクチャーでは、残念ながら特に触れられなかった。
どちらも、「仮頭」を利用した宗教的儀式、という大きなくくりでは同じなのかもしれないが、一見した限りでは、現在伝わっている「舞楽」との近似性はそれほど見られず、ルーツを同じくする、遠い兄弟、という感じなのだろうか。
レクチャー全部に出れば、日本の伎楽との関連性なども聞けたかもしれないが、なにしろ、まる二日間、ぶっつづけだったので・・・・。

いただいた資料には、シンポジウム全部のレジュメが載っており、日本の伎楽の歴史、沖縄のミルク(弥勒)の行道、チャムで使用する楽器、などがのっていて、面白そう。ちょこちょこ読んでいこうと思う。
 


関係ないけど、ブータンの人とモンゴルの人が並ぶと、全然風貌が違うのがおもしろかった。
ブータンの人はひきしまったやせ型で日焼け色の肌、モンゴルの人は大柄で色白でふっくらした感じ。
顔立ちのタイプも何か違う。
近所の公園で毎年やっているモンゴル祭りで、よくモンゴル出身の人を見かけるけれど、たいていは大柄で、たのもしい感じ。さすがは朝青龍の国。(朝青龍25回目の優勝おめでとう。)



☆     ☆     ☆     ☆    ☆     ☆     ☆     ☆



おまけ。2年前に行ったブータン展(上野・科学博物館)で撮った写真を見直したら、チャムに関するものが何枚か
あった。
その時はさらっと流し見していたが、あらためて今見てみると面白い。


ツェツュ(祭り)のジオラマ。
ゾン(城郭・要塞・寺院をあわせたような施設)の前で僧侶たちが楽器を奏し、中央で黒い帽子のシャナ(呪師 )が輪になって舞っている。
輪の中心の人物には道化師アツァラと表示されているが、こういう配置がありえるのかどうかわからない。
アツァラの面はシンポジウムで見たものとは少し異なる。

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楽器と仮面。

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  長いラッパがドゥンチェン。

  下の方にシンバル。
















ドクロだらけの仮面。
左隅にシャナの踊りの写真が見える。

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この記事へのコメント

2010年01月30日 21:29
チベット仏教美術展は、娘が行ってブログに書いていたので、本当は行ってみたかったです。
日本伎楽とチャムの比較とは随分興味深い面白い講座ですね。
絵を見て、似ているなあの感があります。
でも関連に関しては触れられなかったそうで残念。
読ませていただいて面白かったです。
2010年01月31日 18:13
 tonaさん、コメントありがとうございます。
 おー、娘さんもチベット展に、行かれましたか。チベット展は、終了間際でもそんなに混んでないだろう、と思ってたのですが、すごいラッシュ状態で、関心の高さにびっくりしてしまいました。
 チベット展も含め、チベット、ブータン、モンゴルと、それぞれの国の仏教をちょっとずつ見てきましたが、もちろん日本の仏教と共通する部分はあるものの、あまりにもかけはなれたところも多く、とてもおもしろかったです。
 日本伎楽は謎な部分が多いのですが、チャムとの比較検討というのはおもしろい視点だと思いました。丸々2日間ちゃんと参加すれば、ある程度の内容はつかめたのでしょうけれど、おもしろそうなところだけ聞きかじっただけなので、ほとんど聞けませんでしたが、しかたありません。

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